塔の藤田千鶴さんの第一歌集『貿易風』を読む。
藤田さんは、塔7月号の『「塔」ができるまで』という特集(発行されるまでの3ヶ月の流れを写真で追ったもの)で、松村編集長に並んであちこちに登場していた人。塔編集部の、縁の下の力持ちのような存在なのではないかと思う。
歌集の中には、塔誌上で読んで記憶に残っていた作品がたくさんあった。
こうやってまとまって読むと、個人的な交流はないのだけれど、藤田さんという人の輪郭がくっきり浮かび上がってくる。
日常生活の中での生と死や、決して戻ってくることのない時間のさびしさを常に感じながら、一日一日をていねいに生きている人、という印象を持った。
歌集から、私の十首選。
ある日ふと切手集めをやめるよう失われゆく昨日までの価値
子を呼びに通りに出れば世界中紙せっけんのような夕焼け
ひっそりと西の京とう駅のあり遠景はひとを寂しくさせる
青空のどこかがうすくひびわれて今年最初の蝉の声する
誰からも庇ってもらえぬ母を見て長女と思う私も母も
舌赤く染めて硝子を食べているわたしが夏に産みし生きもの
腹這いでヤモリを追う子の衝動よ子供時間の真昼にありて
少し席をつめてくださいと言うように人は死者の仲間に入る
地球から落ちそうな日は健やかな君の寝顔に摑まっている
どの夏も覚えておくよ座布団の上で寝ていた幼い夏も
by 藤田千鶴