遅くなりました。10月号です。
今月から21首選にしました。
自分の歌は開催国出場枠みたいなものなので。
死者が手を洗えるごとき水の音トンネルのなかに広がりゆきぬ
吉川宏志(月集)一首一首に工夫がありてそれぞれに工夫の見えるところが若い
永田和宏(月集)すべておぼろにあれば心の安らけき庭の紫陽花重たげに咲く
進藤多紀(月集)夕立ちの淫らな風のいくたびか役者を代えて信長は死ぬ
朝井さとる(作品1)三半規管みだれてけさはものをこそ 壁の写真は東北の花
宮地しもん(作品1)三方町の田の代掻きのはじまりぬ海沿ひに原発十四基あり
東郷悦子(作品1)水たまりの雲を通過してまたもどる遊動円木くさりのにほひ
長谷部和子(作品1)コスモスの数より多く吹く風の昔誰かだった頃の記憶
小山美保子(作品2)独りきり海の重さを受け止める鮟鱇はいる 今日も確かに
丘村奈央子(作品2)上野発青森行の「ゆうづる」の姿はあらずホームは暗し
谷口公一(風炎集)私ひとり付き添う時に母逝けりマリアの月にそっと静かに
水岩瞳(作品2)桃色を食べてしまえば寂しさが残ってしまう三色団子
水野直美(作品2)花束を解けば茎ばかりになって裸になるのは誰も淋しい
鈴木晴香(作品2)革命歌スピーカーから高らかに流さる切り落とされし耳にも
加茂直樹(特別作品)膝を折りあじさいの陰に泣く母を映画を見るように見ていき
相馬好子(作品2)ベランダに十九の蕾この夏に十九の花が開く幸せ
田宮智美(作品2)加藤好子と彫られた地蔵の墓ひとつ姫あじさいが淡くつつんで
佐藤涼子(作品2)娘の三年見守りくれしとあぢさゐの落馬地蔵を頭を垂れて過ぐ
山尾春美(作品2)奔る瀬のゆるぶ辺に花桐が読書(よみかき)ダムを灯すようなり
加藤桂(作品2)星野源帰りのバスで聴きながらわたしはまだ大丈夫と思う
うにがわえりも(若葉集)戻れない日々の雨音白加賀の深ききずあと大きめに削ぐ
神山倶生(若葉集)