わが母よあなたが死んで十五年今夜大きな月が上った
by 岡部桂一郎 『一点鐘』
作者の好むモチーフがいくつかあるなと気づいた。そのひとつが月である。月が出てくる歌は、数えていないが多いと思う。その他、猫、雪など。
初句「わが母よ」で、ぐっと読者の心情にはたらきかけながら、その後くどくどセンチメンタルに流れてはいない。非常に単純明快な措辞が、一読して読者の胸のうちに入って、覚えてしまう。
「わが母よ」の五文字だけで、作者の母に対する思いの深さはわかってしまうわけで、短歌というのは、あまりいろんなことを、ごちゃごちゃ盛り込まないほうがいいのだと思う。