新世紀青春歌人アンソロジー『太陽の舟』を送っていただいた。
(北溟社 解説:山下雅人・さいかち真)
若手歌人42名の自選60首のアンソロジー。
結社に所属している人もいない人も。そして入っている結社もいろいろである。
もっとも興味深かったのは、それぞれの作者の個性的な顔写真。顔が見えるということは結構大事である。
一応全部読んで、以下、印象に残った方の「勝手にアンソロジー」。
天野陽子
地方紙から穂先の緑はみだしてアスパラガスがひんやり届く
干し柿を手のひらに取る本当に必要なものの重さを量る
大隈信勝
ゑんどうの花のくれなゐわが母も旧姓を持つひとりの女
デラシネの涙のごとく濁りたる湯に卵白が殻を破りゆく
岸野亜沙子
ぷるぷるとふるへるものを断つやうにタイムカードを通さむけふも
失つてゆく一方だらう日の暮れの抜歯ののちに噛みしむる綿
北川色糸
どこにも帰る場所がないから音立てて雨は地上に戻り来にけり
あまりにも静かにふっている雨で 雨というよりいちまいのヴェール
栗原 寛
記憶のなかの幼き夏にまどろみて石灰小屋のにほひのよぎる
東西線の夜に車輌をうつりゆくカムパネルラがさうしたやうに
小林幹也
訃報より目をあげ硝子窓を見る くつきり室内灯のみ映る
ビニール傘をさしたる巫女が通り過ぎ僕ははじめて雨に気付きぬ
佐々木実之
源氏蛍、平家蛍と滅びたるものの名は風のなき夜を飛べり
金魚の墓をつくるかたちに肩寄せて線香花火はまぶしきばかり
棚木恒寿
二十代ふいに深まり落ちそうになる朝の井戸夕べの沼へ
暖かく如月すでに過ぎんとしずるい感じの雨が降りだす
月岡道晴
手のひらに包めるほどのひかりにて線香花火記憶を照らす
地に雪の積もる音ありひそひそと囁くごとくこの宵は降る